雨は月から炎を守る

「兄さん…」
「ジョ…シュ…あ…ッ」

誰も居ない、かつて妊婦が居た家。
そこで僕らは行為に浸っている。

ことはバルナバスと決着をつけた兄、クライヴはずぶ濡れで戻ってきた。
本当は脱いで乾かすべきなのだが、集まった屋内には僕たち以外で妊婦の女性がいた。
クライヴはマントを外し、椅子に掛けると濡れた服のままその女性が落ち着くまで待つことになった。
本当は僕の火で乾かすべきだったのだが、兄は無理をさせまいとそれを断った。
そしてその後どうにも体調が良く無さそうに見えて、僕自身もガブと別れた後すぐにドレイクスパインへ、とならなかった。
本当はすぐにも向かわないと行けないけど…

雨に濡れた兄は服を脱ぐ。
かつて若き父上が着ていた服らしい。
父上も体格が良かったが兄さんは父上よりいい気がする。
本当はこんな格好やめて欲しいとある。
胸から腰はきつく締められ、お尻も綺麗にラインが出ている。
思えば城にいた頃の兄さんも、シュッとした体に服はピッタリと引っ付き体のラインを強調していた。

10歳の記憶ではまだ当時、兄に対して憧れはあったがそんな目では見ていない。
そんなはずだ。
けどあの兄さんを思い出すと胸は何故か…
再会するまでの、この18年間高鳴っていた。

服を干した兄さんは何も纏わぬ姿でベッドに座っていた。
外を見ていた。こんな空でも月は出ていた。
月夜に照らされる兄を見て僕は胸の高まりが治らない。

「兄さん」

ベッドに近寄り、座っている兄へ膝を立てて被さる。
僕にはにかむ兄は本当に可愛い。
両手で顔を包み軽く口付けをした。
兄は拒まず、すんなりと受け入れる。

「どうした、甘えたそうな顔をして」
「そうかな」

僕の胸はどこか寂しく、センチメンタルだ。
兄は不安げな僕を優しく撫でる。
その行為に僕は口付けをして答える。
軽く開いている兄さんの口へ舌を忍ばせる。
兄さんは待っていたかのように受け入れて、兄さんも僕の口に舌を忍ばせる。
2人の唾液が混じっていき、甘い感覚と刺激に脳がふわっとする。
体も熱くなっていく。
まるで炎のように。

「兄さん」
「あっ…」

深い口付けを何度もしながら僕は兄さんの胸の突起を摘む。
兄さんから甘い声が漏れる。
突起を弄られ、出される甘い声を全て奪うように口付けをやめない。
すると兄さんは僕の肩を軽く叩く。
口を離すと兄さんは荒い息をする。
はあはあ、と息を整える兄に僕は口付けで空気を奪いすぎたなと反省する。
けれど僕はこんな状況でも…兄に欲情してしまっている。

「兄さんっ…」
「ジョシュアッ…んっ…あ…」

強くて逞しい兄さん。
そんな兄さんは僕に抱かれ淫らに喘いでいる。
シドの名を名乗る彼がこんな姿をするなんて誰が思うだろう。
ましてや弟に抱かれて。

初めて兄を抱いたとき、男以前に自分は他人を抱いたことはなく兄以外に欲情も無かった。
精通の時、真っ先に浮かんだのは兄クライヴの顔だった。
自分でも分からなかった。憧れの兄を思って射精するなど。
それから自慰をする時はただ兄を思った。
そして手に吐き出された白く濁る精を見るたびに後悔した。兄を汚していると。

思い出の中の兄を僕は汚してく。
けれどいざ兄と初めて行為をするとなった時、兄がザンブレクに居た頃…酷い扱いで道具のように抱かれたと知った。
15の時…刻印を刻まれるその前に、綺麗な顔の王子様だからと。
お前はクライヴ・ロズフィールドを捨てる、そのための行為だと。
ワイバーンとなってからも慰み者にされた。
男しか居ない中でそういうことはある。顔立ちの良かった兄さんは的にされた。
何度も何度も酷く抱かれ、感情や心は死んでいく。

そんな話を聞いた僕はかわいそう、こんな行為やめた方がいいではなくただクライヴを抱いた男達への憎しみと殺意が湧いていく。
そして被害者であるクライヴに怒りと悲しさで、初めてで下手に関わらず…
ただ兄の抱かれた記憶を証拠を上書きしたかった。
手酷く抱いてもクライヴは僕に笑った。
幸せそうに。炎のように熱い体を互いに抱きしめて。

それから何度か数える程度しか抱いていない。
僕自身の体調も良くないからだ。
それに隠れ家で堂々と『シド』を抱けない。
こんなに兄が近くに居るのに生殺しだ。
ジルやガブにはバレているけど…
ジルが気遣って兄さんの部屋から出るのも痛ましい。
クライヴだけでなく、僕もジルを傷つけている。

そして今、多分僕は焦っている。
この体に…
アルテマを封じた代償の果てを。

元々体は弱かった。
そんな体に無理を重ね、石化での死も覚悟しながら兄のクライヴをただ思っていた。
5年前のあの時も、あの時までもずっと。

「なに考えて…るんだ…っ」
「ごめん、兄さん…クライヴ」

考え事で腰の動きが止まっていたようだ。
クライヴは不安げに僕を見つめていた。

「俺は…気持ちいいが…お前は…」
「いや、そうじゃない」

クライヴにそんな顔をさせる自分が嫌いだ。
兄を…クライヴを思う心は誰にも負けていないと思う。
そしてクライヴも誰よりも僕を。

「クライヴ…あなたの1番は誰」
「…お前だよ、ジョシュア」

僕の背中に手を伸ばし、抱き寄せるとクライヴは口付けをした。
先ほど何度も深い口付けをしたけど、それでも飽きず甘い快楽が頭を支配する。
クライヴはニコッと笑う。そして腰を自ら動かす。

「クライヴ…淫らだね」
「お前にだけだよ、ジョシュア…んっ…」

クライヴを押し倒すと僕は強く腰を打ちつけていく。

「あっ…あ…はげし… 」
「ここは誰も居ない、見ていないよ…声もっと…聞かせて」
「んあ…あっああ…あっ…!」

嘘。本当は月が僕ら兄弟を見ている。
近親相姦という関係の禁じられた行為を。
僕のたちは兄弟で無ければ堂々としていられたのだろうか。
けど兄弟だからの繋がりもある。
クライヴは僕に対してどうなのだろう。
僕はもうクライヴをただの兄として、見れない。
1人の男として好きだ。何もかも。
けど弟の立場も利用する、狡い男だ。

「クライヴ…」

弟が兄をそう名前で呼ぶことも。

「僕だけのクライヴ…」

数回しか行為をしていなくてもクライヴの蕾の奥は僕の形になっている。
ザンブレクを出て5年間、行為をしていないとはいえ。
けれど嬉しかった。兄は誰にも手を出さず童貞だ。
すなわち僕にだけ行為を許している。
僕だけに欲情し、僕だけに淫らになる。
あの頃なんてもうとっくに上書きされたんだ。

「ジョシュア…いっ…く…」
「僕もだ…クライヴ…っ!」
「あ…っ…!」

僕はクライヴな中へ欲望に塗れた精を吐き出す。
クライヴもまた自分より立派な男根から精を吐き出した。

「こら」

クライヴの吐いた精を僕は指に掬い取り舐めていた。

「腹下すぞ」
「兄さんこそね。僕のをここに…ねえ僕は兄さん…クライヴのものは何でも欲しいから」

繋がったまま僕たちは笑う。
クライヴは仕方ないなという顔で。

「クライヴ…急いでるのは分かるんだけど」
「いいよ。お前が幸せそうなら俺はいい。雨も降っているし今夜は」

気付けば外は雨だった。
月から僕たちを隠すように黒い雲で覆われている。
クライヴの体調が悪かったことも忘れ、朝まで抱き合った。
炎のように熱い体をぶつけて行為に浸った。
そう、僕たちはただのドミナントとしてではない炎のような兄弟だ。

僕は兄さん…クライヴのためならどんなことになっても後悔は無い。
だからクライヴが犠牲に、なんでも背負おうとするのが許せない。
僕だけの兄さん…僕だけのクライヴ。
また僕を…ジョシュアを失っても忘れないで欲しい。
あなたを傷つけ、一生背負うことになっても。
ただ僕だけを見て欲しい。

だから残りの時間…いや生きたいけど、
その心と体に刻むんだ。

僕の存在を。
一生忘れないために。
死んでもまたその魂が出会えるように。

ずっと僕はあなたを追いかけるよ。
クライヴ。